就労者の障害年金の進め方。就労状況ヒアリングが明暗を分ける?

就労状況に関してのヒアリングポイント

就労状況に関してヒアリングのポイントについて解説で、前回の続きです。前回見れていない方がぜひ前回分を読んでみてください。

ヒアリング必要性の再確認

精神系の障害年金の申請の際になぜ就労状況のヒアリングが必要になるかは前回もお話ししましたが再度説明します。

根拠となるのは以下の認定基準の切り抜きです。

(障害認定基準 第8節 精神の障害より抜粋)

  厚労省も仕事をしている=日常生活能力があるとは認めないと宣言しています。しかし、次に仕事が日常生活能力に影響を与えている点として「①仕事の種類、内容、就労状況、②仕事場で受けている援助の内容、③他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること」となっていることから、少なくとも仕事をしている以上これら3点の確認は必要であることを意味します。もし、これら3点の状況確認が不十分であるなら日常生活が向上していると捉えられて年金が不支給になる可能性は否定できません。そのため、診断書にしっかりと内容を記載してもらうために就労状況のヒアリングは重要になります。

 

ヒアリング項目

せっかく就労状況の確認を行うなら①~③以外の項目についても確認すべきかと思います。障害者雇用においてポイントになる点をまとめました。どのような配慮を受けているかという視点でまとめています。

認定基準でも出てきましたが、配慮や援助の状況は重要になります。

① 就職への経緯

② 雇用形態(正社員・非正規社員)、雇用契約期間(有期契約か無期契約か)勤務時間、1か月の勤務日数、給料額、勤続年数 社会保険加入の有無

③ 仕事の内容(どのような仕事か仕事の中身、単純反復作業などあるか?)

④ 職場での支援体制、援助や配慮事項、会社の障害者雇用への取り組み姿勢など

⑤ 家族や支援者との連携状況

(定期的に近況報告に際して打ち合わせ等(ケース会議)があるか)

⑥ 就労に際して、支援機関の支援があったか?

ジョブコーチ利用、定着支援事業を利用、就労移行支援を利用など

⑦ 通勤状況(通勤方法、所要時間、ルート、遅延などが生じた場合に対応できるか?)

⑧ 休憩時間の様子(休憩時間は疲れて寝ている、誰とも話さずに孤立している等)

休憩場所、休憩時間の配慮があるか?
⑨ 勤怠状況(遅刻、早退、欠勤の有無)

 

各項目の解説

① 「就労への経緯」に関して

これは、縁故採用なのか実習を経たのか等確認です。

通常精神系の障害者が就職する場合、数日から数カ月の実習を経て決まるケースが多いです。

② 「雇用形態等」に関して

⑴ 正社員かどうか、雇用契約期間はポイントで雇用の安定性に繋がる項目です。長期雇用しているなら、生活も安定していると捉えられる可能性が有ります。有期雇用契約ならその事実をしっかり認定医に伝えていかないといけません。特に雇用が絶対に更新されるのではなく「更新する場合がある」際、雇用は不安定なのでその事実は認定医に分かるように伝えるべきです。

 

⑵ 社会保険の加入は社会保険の加入要件を満たすほど長時間就労している証拠になるので注意が必要です。1.2級は生活能力の有無で判断されるので、社保に加入できるぐらい長期で就労できる=労働能力有り⇒日常生活能力も有ると判断される可能性があります。そのため、社保には加入しているが、仕事では大幅な配慮を受けている等の説明を認定医にしていく必要があります。

⑶ 給料も一つの目安になり、社会保険の加入と同様に賃金が高い=労働能力ありと捉えられがちなので、賃金総額だけでなくその内訳等の確認が必要です。特に社会保険の報酬には通勤手当や見込みの残業代も含まれて計算されるので、それらの確認が必要です。例えば総支給20万としても、基本給15万円 通勤費 2万円 固定残業代3万円なら実際労働の対価として評価されるのは15万円です。しかし、社会保険の報酬としては20万すべてがカウントされるので現実の評価とのズレが生じていします。そのズレについてはきちんと説明していかないといけません。

③ 仕事の内容に関して

⑴ 仕事の難易度で労働能力の有無が判断される場合もあります。そのため、仕事の内容についてしっかりヒアリングが必要になります。例としては、判断が伴うような仕事、その人にしかできない仕事は必然的に難易度が高いと評価される傾向があり、その逆で誰もができる単純反復作業は低いと評価される傾向があります。何が単純作業かどうかの判断は本人では難しいと思うので丁寧にヒアリングをしていく必要があります。

④ 職場での支援体制に関して

もし、何も職場で就労継続のための配慮を受けていない場合は「障害はあるが、労働能力が十分ある」とみなされ不支給になる可能性が有ります。ただし、何をもって配慮とするのか配慮の定義が難しです。例えば「本来の契約ではこの業務も契約の範疇であるが、現状は無理だからまだこの仕事はさせないでおこう」というのも考えられます。配慮は有形・無形問いません。この配慮事項は想像力をもってヒアリングしていかないと見落とす可能性は高い項目になります。

具体的な配慮例

配慮とかしこまれば難しいですがシンプルに考えます。ようするに障害者が就労し易いような環境調整を指すと考えればイメージしやすいかと思います。

⑴ 個人やグループの1日の予定がホワイトボードに書かれている。

⑵ 上司が指示をする際は紙に作業内容を記載して渡す。

障害者雇用が進んでいる会社は、うちは「配慮」してますとアピールするのではなくごく自然に行われています。そのためそこで就労している人は気づいていない場合が有ります。この点は障害者雇用の実態が分かっていないと気付かないポイントになるので注意が必要です。

⑤ 家族や支援者との連携状況に関して

会社側と就労継続をサポートする支援者(障害者を送り出した訓練施設等)やその障害者の保護者等と定期的に職場での様子、仕事の進み具合などについて意見交換することを指します。仕事場での様子を関係機関と共有することで、問題の解決の糸口をつかめる場合があるので障害者雇用ではよく取り入れられます。健常者の就労でこの様な機会はほぼない事を考えるとこれも一種の配慮と考えることができます。

  

⑥ 就労に際して、支援機関の支援があったか?に関して

入職時、復職時に第三者の支援を受けて就労する場合が当てはまります。例えば長期休職者が復職に当たり職業センターのリワークプログラムを利用し、ジョブコーチが支援に入る事がそれにあたります。また、就労施設に通所中の障害者を会社が雇入れる場合、その施設の職員がサポートする場合があります。これも雇い入れ時の支援があると考えられます。

これは、認定基準の一文にある就職に際して何らかの配慮が有ったことを裏付ける証拠になるので、どのような流れで就職したのか整理しおいても損はありません。

⑦ 通勤状況に関して

これは、通勤の状況について何か配慮を受けているかの確認です。

配慮として考えられるのは以下です。

⑴ 時差出勤等で通勤ラッシュの時間帯を避けて通勤が可能になる。

⑵ 健常者とは異なる通勤経路や手段が認められている。

例えば通勤距離が短いので本来なら公共交通機関が使用できない場合も利用が認めら。

⑧ 休憩時間の様子に関して

健常者より休憩時間が多い、時差休憩時間を設け休憩時間をしっかりとれるようにするのも配慮の一つです。また障害者専用の休憩スペースを確保するのも配慮と考えられます。

また休憩時間の様子や仕事終わりの様子も年金ではポイントになります。例えば仕事が終わると疲れ果てて数十分動けない、自宅に帰ると疲れてすぐに寝てしまうなど、就労と日常生活が十分調和できていないと考えることが可能です。

これらの事実が有るなら積極的に主張しておくべきだと感じます。

⑨ 勤怠状況に関して

勤怠状況は就労が安定しているかどうかの目安になります。安定的に出勤しているなら殊更にきちんと出勤できているとは主張する必要はありませんし、もし、遅刻等が多い不安定就労なら仕事が十分こなせていないという証拠にはなります。

また。休職等長期休暇している場合は注意が必要です。欠勤等がいくら発生しようが、長期休職しようが社会保険の記録上長期欠勤等の事実は確認できません。そのため、欠勤しがち、長期休職している場合はその事実を積極的に伝えていかないとその事実が十分に伝わりません。

その手段としては給料明細、傷病手当金の診断書、休職の辞令等を活用します。

 

終わりに

就労状況のヒアリングは重要ですが、他の年金専門社労士から就労が重要であるとはあまり聞きません。しかし、就労している事実で不支給になるケースは現実に存在するので、そうならないために如何に情報を伝えていくかが限りになります。

就労者で年金請求でお困りならぜひご相談ください。