障害福祉に従事する支援者向け知的障害の障害年金ガイダンス 手続き解説

  このページは複数回に分けて知的障害者の支援に従事する人向けに、障害年金の手続き解説を行っていきます。

障害年金がよく分からない人等は是非参考にしてみてください。

知的障害の障害年金請求は障害年金の中では基本的な部類に属すると私は考えます。その理由は以下のとおりです。

① 受診状況等証明書が不要(初診証明不要)

② 初診日が出生日になり、20歳前の障害基礎年金の請求になるので認定日は20歳になる。

ようするに、書類の提出が一部免除され、請求時期も20歳の時点で請求するとルール化されている点で進めやすい手続になってます。しかし、障害年金に共通する認定基準の分かりづらさは以前として残っているのと、知的障害という目に見えない、客観的に分かりづらい障害をどの様に診断書に落とし込んで行って良いのか?という疑問は残ります。

これら疑問に少しづつ解説していきます。 まず、冒頭の2点の説明から行っていきます。

 受診状況等証明書が不要の意味

 

受診状況等証明書が不要ということは初診日を特定しなくても年金請求ができる事を意味します。障害年金において一番の論点は初診日の特定です。初診日が決まらないということは請求する障害年金が決まらないことを意味し、とどのつまりそれは、障害年金が請求できないことを意味します。

 

実務では知的障害の年金の場合、受診状況等証明書の提出は不要です。しかし、市役所など年金に精通していない窓口で申請した場合、受診状況等証明書が必要であると案内されたりします。もし、この様な場合に直面したら昔の通達(先天性障害の取り扱いについて 昭和43223日 庁文発第2149号)を提示するか、制度を知った人に交代してもらい手続きを進めて貰う等対応しないといけません。なぜ、この様なケアレスミスが生じるのか考えると、担当者の無知のケースともう一つ考えられるのは障害が重複しているケースです。例えば発達障害と知的障害の両方が診断書に記載されている場合です。知的障害だけでみると受診状況等証明書は不要ですが、発達障害単独で請求する場合は受診状況等証明書が必要になります。

ただ、これに関しては厚労省が一つの回答を示しています。

知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされているので、知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に後から発達障害が診断され障害等級に該当する場合は、原則「同一疾病」として扱う

(給付情 22011-121 平成23713日)

知的障害が判明していた後に発達障害が判明したケースは同一疾患として扱うルールになっています。別の通達にて知的障害は先天性の疾患とするとなっているので、順番からすると知的が先にきます。後に発達障害が分かっても知的障害と同一疾患となるので知的障害のルールが適用され受診状況等証明書は不要という理屈になります。

 

しかし、実際請求の段階で窓口の人に受診状況等証明書が必要と言われたら慌ててしまうケースが大半なので、もし可能なら診断書作成の段階で医師に発達障害の記述を抜いてもらうようにお願いするのも一つです。因みに請求する障害が多い方が審査に有利と思っている人がいますが、そんなことはありません。知的障害のみ、うつ病のみでも障害認定基準に合致すれば障害年金は受給可能です。

知的障害はいつ判明するのか?知的障害は出生日である根拠

行政上の知的障害者の初診日が出生日である根拠は下記の通達になります。

(先天性障害の取り扱いについて 昭和43223日 庁文発第2149号)

では、実際に知的障害はいつ判明するのでしょうか?生まれた直ぐに知的障害と診断が下るのでしょうか?中にはその様なケースもあるでしょうが生まれた直後に知的障害と認定されることはほぼないと思われます。

医学的に知的障害は先天的な疾患であると考えられていますが、検査は発育状況の遅れ等がきっかけで行われます。発育状況の遅れが分かるケースは幼児健診、幼稚園での振舞、義務教育での問題行動、学業成績の不振等があります。そのため、判明時期は人それぞれで小学校に上がる前に判明するケースもあれば、中学生時代に分かるケース、中には高校卒業し社会人になってから判明するケースもあります。

障害年金を考える際に注意すべきは知的障害であると判明したのが小学校時代であっても、高校であってもその初診日は出生日であるという点です。知的障害が判明するという事はその時点で何らかの医師の診察を受けているにも関わらず、その時点の受診状況等証明書は不要であくまでも初診日は出生日とする扱いが、ある意味障害年金独特の考えになります。

 

では、20歳を超えて知的障害が判明したケースで初診日はいつになるでしょうか?

このケースも原則的に初診日は出生日になります。変な話ですが、上記理屈からはその様になります。私も過去に何回も20歳越えで知的障害が判明したケースで障害年金の請求を行いましたが、すべて20歳前の障害基礎年金として受給が決まっています。

この取り扱いは障害年金が保険料未納で請求不可の場合は非常にありがたい取り扱いで、保険料未納でも年金請求ができる点で非常に有利です。(20歳前の障害基礎年金は保険料納付要件が問われずに請求ができます。)

その反面うつ病で障害厚生年金と請求できるケースでも知的障害と判明すると問答無用で20歳前の障害基礎年金の請求になる点で不利になります。この場合はうつ病と知的障害を完全に診断書上で分けれるならうつ病だけで診断書を作成することで回避できますが、うつ病と知的障害が切っても切れない関係にあるなら難しくなります。

しかし、この様なケースも厚労省は想定している様子で以下の回答を示しています。

なお、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者については、発達障害の症状により、はじめて診療を受けた日を初診とし、「別疾病」として扱う。

(給付情 22011-121 平成23713日)

 例は発達障害ですが、この考えはうつ病にも類推できると言われています。障害程度が軽い場合は後発の発達障害を初診として扱うとなっていますが、3級不該当程度の知的障害の定義はあいまいです。理屈上は知的障害が有っても知的障害を不問に付して年金請求ができる可能性はあるのですが、その要件がアバウトである以上、この方法を活用するのは一定のリスクがあるように感じます。知能検査をして知的障害が判明すると医師も診断書に書かざる負えないケースもあることから、障害厚生年金を検討している場合は変に知能検査を受けて障害名を増やす必要性はないと思います。

 

20歳以降で知的障害が判明しても障害認定日は20

障害認定日についての解説

 20歳前の障害基礎年金の障害認定日は20歳です。障害認定日とは障害年金の請求ができるタイミングです。通常初診日から16か月経過した日が障害認定日となり、その時点の診断書を活用して請求するのを認定日請求と呼びます。

障害認定日は初心者の方には理解しづらい概念ですが、病気から障害に代わるタイミングを一律にルール化したものと理解すればよいかと思います。

障害の定義は難しくなるので、ここでは深く考えませんが「障害を症状に改善が見られず固定化され、それが生活に影響を与えるもの」と定義します。

腕を切断する、脳死状態になる等の特定の状態以外いきなり障害として認定されません。初めは病気からスタートします。うつ病の場合は気分の落ち込みや仕事でミスをするので「おかしいと?」と思い病院に行くとうつ状態と診断され「精神安定剤」が処方されます。それがスタートです。しかし、この時点はあくまでも障害ではなく病気です。それが治療を継続しても治らない、どんどん悪化していく、これが継続していくと障害に近づきます。しかし、いつの時点で障害になったか医師の主観だけで判断しているといつまでたっても障害と認定されないケースも出てきます。そこで、初診日から16か月経過した時点を障害認定日とルール化することで「いつ障害になるのか?」問題を回避することができます。これらはあくまでも病気の話で例えば交通事故で足を切断した、脳死状態になった、人工透析を始めた場合はその時点を障害認定日として年金請求を可能にしています。

初診日から16か月経過した時点を障害認定日としてルール化したことで、障害認定日の時点で障害化していない場合は請求できないことになるし、障害として認められるけどそこまでの障害状態ではないケースは残念ながら認定日請求では年金受給はできず、事後重症請求のみの請求になってしまいます。

20歳以降に知的障害が判明した場合の障害認定日

 20歳前の障害基礎年金の障害認定日は20歳です。20歳以降に知的障害が判明しても初診日は出生日であるとは前に説明しました。ということは、20歳以降に知的障害が判明した場合の障害認定日も20歳になります。

 20歳以降に知的障害が判明するという事は、通常20歳の時点で通院していません。認定日請求するには当然ながらその時点の診断書が必要になりますが、通院していない以上診断書の作成ができないので認定日請求できないという結論になります。

あとよくある勘違いで、20歳以降に知的障害が判明したケースで初診日から16か月待たないといけないと思っている人がいますが、待つ必要はありません。知的障害の障害認定日は初診日が20歳以降に判明しようがしまいが、20歳の時点なので待つ必要はありません。