役員も雇用保険加入 知っていますか? 兼務役員実態証明書

先日、某会社の役員の雇用保険加入の手続きが約2か月の審査の上で、ようやく決定し無事雇用保険に加入することができました。これで晴れて役員ですが雇用保険の被保険者になりました。役員が雇用保険?と聞いておかしいと思いますが加入することは条件によっては可能です。

 

雇用保険の目的と加入条件

雇用保険の目的は労働者の失業時の所得補償にあります。

雇用保険への条件は①1週間の所定労働時間が20時間以上あり②継続して31日以上雇用される見込みがある場合です。

必然的にその加入は労働者と考えがちですが場合によっては役員や同居の親族も雇用保険に加入することが可能です。しかし、無条件に役員等が加入できる訳ではなく、その役員が労働者性を有している場合に加入できるという仕組みになっています。そのため、勤務時間が管理されていなかったり、出勤も自由だったりする役員は当然ながら雇用保険に加入できません。理由は労働者性、すなわち使用者から指揮命令を受けて労働していないからです。

 

因みに労働者性については色々議論が有りますが、労働者としていえるには使用者からの指揮命令と労働の対価としての賃金の支払いの2方面が必要になります。

 

雇用保険に加入できる役員の整理(雇用保険事務手続きの手引き(令和34月版))参照

① 代表取締役は雇用保険に加入はできません。

② 代表取締役と同居している親族かどうか?

まず、事業主、ここでは会社なので代表取締役を指しますが、代表取締役と同居している役員は雇用保険の被保険者になりません。これは、規模が零細会社などで個人か株式会社か判別つかないような会社を想定しています。

また、代表取締役の親族しかいない会社の親族は雇用保険の加入は厳しくなります。(雇用保険事務手続きの手引き(令和34月版))27頁の「事業主と同居の親族」に「具体的には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇…その管理が他の労働者と同様になされていること。」とあることから、他の労働者の存在が必須であると読み解くことができます。

③ 役員が労働者性を有しているかどうか?

労働者性といえば固いですが、ようは役員が労働者としての側面を有しているかどうかという話になります。部長兼取締役、工場長兼取締役等の様に労働者としての側面を有している場合であり、勤務実態や給料支払いの側面からみて労働者的性格が強く、雇用関係が明確に存在している場合に限り、雇用保険の被保険者として認められます。いくら部長兼取締役であっても労働者性が全くない部長職の場合は労働者性が無いので雇用保険には加入できないことになります。

↓(整理)

① 雇用保険に加入されたい役員が代表取締役でない会社。

② 代表取締役と同居していない役員

③ 一般の労働者を雇用している会社

④ 他の労働者と同じように労務管理されている役員

が雇用保険に加入できる可能性が有ります。

 

実際の「兼務役員実態証明書」手続きについて

 

申請には兼務役員実態証明書の提出が必要ですが、これを出すだけで役員が雇用保険に加入できる訳ではありません。労働者性の確認が行政でなされる必要があります。確認資料は色々ありますが、代表的なのは就業規則、雇用契約書、賃金台帳、出勤簿、労働者名簿です。どれも労働者として雇用されるには必須の書類になります。私が最近手続きを行った会社は賃金テーブルや1か月単位の変形労働時間制の会社だったので勤務シフト表も提出し他の労働者と同じように管理されていることを証明していきました。

あと、忘れてはならないのが給料と役員報酬等の関係です。給料より役員報酬が高いなら労働者性が無いという事になります。同程度でも厳しいと感じます。

 

 

役員が雇用保険に加入するメリット

役員が雇用保険に加入するメリットですが、①失業給付を受けることができる(ただし、失業給付を受けるには役員も離職しないといけません。役員の状態で労働者性を失うだけでは失業保険の受給はできない可能性が高いです。)②雇用調整助成金の対象になる。(労働者性の部分のみ)③一般教育訓練給付金の対象になる。等挙げられます。

 

 

 

終わりに

兼務役員実態証明書の提出には添付書類が多く面倒な部分が有ります。またそもそも労働者性がよく分からない会社さんも多いのではと思います。役員が雇用保険に加入するメリットは少ないですが、今なら雇調金の申請では活用できる場合もあるので、手続で悩まれている方は是非ご相談ください。