外国人、一般就労で正社員、標準報酬月額38万円、高次脳機能障害で障害厚生年金2級受給決定
先日申請した高次脳機能障害の障害厚生年金の申請の結果が出て、障害等級2級の結果となりました。個人的には言い過ぎかもしれませんが奇跡的な結果です。
請求者は高次脳機能障害で精神保健福祉手帳3級を取得していましたが、工場にて障害者枠ではなく一般就労の正社員として就労していました。経験的に障害者枠での就労で2級が決定されるのかというイメージが有ったので、正社員でかつ報酬もそれなりに高い金額で2級が下りたのが奇跡的と感じました。
以下では、この請求で私が請求に際して気をつけた点について説明していきます。
基本情報
発病から現在までの経過
高次脳機能障害の初診は10年以上前に脳梗塞で倒れたのが原因であると考えられました。生命に別条はないとのことで、退院してその際は高次脳機能障害の症状を医師から指摘はされませんでした。しかし、自宅に戻るも以前の様に生活ができない、また復職して以前できていた仕事が全くできなくなる等の症状に悩まされるようになりました。高次脳機能障害と正確に判定が下りたのは2年ほど前でその際に精神保健福祉手帳3級を取得しています。仕事に関しては、何回か転職を繰り替えず、現在の職場に就職してから数年経過して現在に至っています。
請求人は家族と同居しており、子供もいます。精神薬は障害特性上服用はしていません。
診断書上の情報
2 日常生活能力の判定
(1) 適切な食事 3点
(2) 身辺の清潔保持 3点
(3) 金銭管理と買い物 3点
(4) 通院と服薬(要) 3点
(5) 他人との意思伝達及び対人関係 3点
(6) 身辺の安全保持及び危機対応 2点
(7) 社会性 4点
判定平均 3.0点
3 日常生活能力の程度
精神障害 3
エ 現症時の就労状況
一般企業 勤続年数5年 月に20日 給料額 20万円
障害等級目安に当てはめると単独で2級の基準にはありました。
請求に際して気をつけたポイント
① 標準報酬月額について
1.標準報酬月額とは?
標準報酬月額は人事労務に携わった人なら聞いたことがある人も多いでしょうが、社会保険料徴収の際に日本年金機構が便宜的に定めた概算の給料額です。概算と言ってもある程度の相場は抑えているので実際の給料額に近い数字にはなっています。
標準報酬月額の注意点は一度決まると原則1年間は同じ金額で推移します。一般的に9月に新しい標準報酬月額が決まると翌年の8月までは同じ金額で推移します。たとえ、この間に欠勤や休職で給料が少なくなってもこの金額に変更はありません。変更が有るのは、欠勤等で給料が下がるのではなく、基本給が減額された等で賃金総額は減少する場合です。
なので、会社には在籍しているが休職中の労働者が障害年金を請求する場合、事実としては休職して給料が発生しない状態であっても日本年金機構からすると標準報酬月額に変化は見られないので元気に就労できているとみなされ、不支給になる可能性が考えられます。在職者で休職中の障害年金の請求のケースでは給料明細や傷病手当金の控えなどを添付して全く就労できていない事を証明していく必要があります。
2.総賃金総額で標準報酬月額を算定する。
ここは標準報酬月額の解説ではないので詳しくは説明しませんが、標準報酬月額は4.5.6月に支払われた給料総額の平均値で決定されます。その際の給料総額にはその期間に支払われた賃金全てが含まれます。基本給や資格手当や残業代、はたまた通勤手当まで含まれます。例えば4月に通勤手当を6か月分支払う会社や4.5.6月に残業代が多くなる会社の標準報酬月額は必然的に大きくなります。
請求人の標準報酬月額は38万円と高額ですが、給料明細ベースでその内訳を見ると基本給は20万円前後で、家族手当2万円、通勤手当2.0万円、調整手当3万円、それ以外が残業代の様な状況でした。家族手当、調整手当、通勤手当は純粋な労働力に対する対価ではなく、純粋な労働の対価としての価値は20万円なのでそのことは複数月の給料明細を活用して説明していきました。
② 一般枠で正社員としての就労の事実について
1. 一般枠で正社員としての就労の事実について説明
高額な標準報酬月額もさることながら障害者枠でない一般就労で正社員として就労している状態で障害年金が受給できるのか?という事に強い疑問を持ちながら相談を受けていました。
確かに、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」には、「一般企業(障害者雇用制度による就 労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。」と記載されていますが、それが杓子定規にその一文を当てはめて審査してくれる保証は有りません。しかし、愚痴を言っても仕方がないので、年金受給の可能性を少しでも広げるために「就労の実態」について丁寧にヒアリングを行いました。
もう一つのポイントは「相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。」で「障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する。」とあるので配慮事項についても請求人の妻から丁寧にヒアリングを行いました。
ヒアリングから見えてきた配慮事項について
1.作業の内容、長期雇用の要因
ヒアリングを通じて就労状況が分かってきました。本人の業務は完成品を水で洗う作業で、単純反復作業です。そこには作業の方向性を決めるような業務は無く、ただ廻って来る完成品を洗うだけの作業です。この会社の特徴なのか?この洗う作業は他の従業員が敬遠気味なので請求人が在籍して洗いの作業をしてくれるだけでも会社としては助かるという状況みたいで作業スピードや作業精度等は求められない様子です。高次脳機能障害の障害特性より作業手順が覚えれない、良くミスをすることが多く前職を解雇されていますが、ここではミスをうるさく言われないのが5年間も継続就労できた要因となっています。
2.通勤に関しての状況について
通勤に関しては妻が起こすことで起床できます。自分一人では起きる事ができません。通勤着や着替え等の準備は前日に妻が行っており、本人単独では行うことはできません。もし、前日に準備しないと朝着替えが途方に暮れるので妻が準備している状況です。着替えに関しても妻が逐一声掛けしないと進みません。朝ごはんも本人のペースに任せると食べ終わるころには遅刻してしまうので、逐一声掛けしています。
本人宅から会社までは車と電車で向かいます。最寄り駅まで自転車で通勤できたら妻の負担も軽減されるでしょうが、単独での自転車は危ないのでできません。電車に関してもこの電車に乗れば乗り換えなしで行ける電車でないと単独での出勤は難しいです。もし、予定の電車に乗り遅れると駅員さんに聞いて行動するという行為が取れないので、いつも妻にどうしたらよいか聞いている状況です。
そのため、通勤に関しても非常に手厚い配慮を受けながら成立している状況があります。もし、妻の支援が無いと通勤は不可能になります。
この点が面白い所で単純労働をする能力はあるが、日常生活能力が無い例になるのかと思います。
まとめ
本事例では高額な標準報酬月額についての説明、仕事の様子を丁寧に説明することが受給権への確立につながったと考える事ができます。標準報酬月額のカラクリは労務管理の経験が無いと分からないと思います。本事例では、給料明細を活用して標準報酬月額の説明を行い、純粋な労働の対価は低いことを論証しました。また障害者雇用並みの配慮を受けて就労継続ができていることを診断書とは別紙として申し立てる事で雇用の状況について丁寧に説明を行いました。本事例は細かいフォローで受給まで結びついた事例でもあり、障害者雇用でなくても就労上の配慮を受けていると障害年金受給に結びついた例でもあると考えます。もし、一般枠で就労しているが、年金が受給できるのだろう?と悩まれている方がいらっしゃいましたら是非ご相談ください。