保険料長期未納でもうつ病・知的障害で障害基礎年金2級 受給決定
保険料長期未納でもうつ病・知的障害で20歳前の障害基礎年金を事後重症請求にて2級 が決定した事例を紹介します。
障害年金は①保険料の納付要件②障害認定基準に該当する基準を満たさないと絶対に年金受給できません。障害認定基準に該当するかどうかは障害の状態如何によるので、現状は基準に達しなくても将来的に悪化すると該当する可能性はあります。(あまり縁起の良い話ではないですが…)一方で保険料の納付要件は一度満たさない事が決定すると、後から保険料を追納しても絶対に満たすことはありません。保険料の納付要件は「請求する障害」の初診日で判断されます。通常請求する障害に対応する初診日は一つなので、保険料の納付要件はその初診日で可否が決せられます。もし、その初診日で保険料の納付要件を満たさないと一生保険料の納付要件を満たさないことになります。障害年金の一番の障壁はこの保険料の納付要件で一度満たさないことが決定すると、それを覆すにはその初診日より前の初診日の存在を証明する以外ありません(ほかにも社会的治癒等の方法はありますが、…)。
知的障害なら保険料未納が長期にわたる場合も請求可能
「うつ病」では初診日の請求不可の可能性
本事例の請求障害は「うつ病」と「知的障害」で、現在通院している病院以外に過去に1か所通院歴があります。
「うつ病」の初診日は本人曰く高校生との事ですが、当時通院していた病院(A病院)ではカルテは破棄されていました。現在通院している2番目の病院(B病院)を初診日とするとその時点では保険料納付要件は満たしませんでした。20歳以降国民年金を支払った実績はありませんでした。「うつ病」で請求するなら方向性としてはA病院に通院の事実を立証して初診日を高校生として申請するほうほうしかありません。その方法でも申請は可能だったと思いますが、「知的障害」という事実を活用しました。
知的障害なら初診日は出生日
請求人曰く最近「知的障害」が判明し療育手帳も取得したと話していました。もし、知的障害で請求するなら初診日の証明が不要となり、申請が非常に楽になります。本事例では「うつ病」で申請するにしても「知的障害」で請求するにせよ20歳前の障害基礎年金になるので、それなら初診日の証明が不要な知的障害で請求しない手はありません。
年金法上、知的障害の初診日は出生日との扱い(昭和43年2月23日庁文発第2149号)ですが、知的障害だからと言って初診日が必ず出生日になる訳ではありません。知的障害は先天性の疾患であると考えられる以上、幼少期から発育状況に関する遅れの存在が必要になります。もし、幼少期に特筆すべき知的障害に関するエピソードが確認できない場合は知的障害であっても初診日は出生日と認定されない可能性はあります。
20歳以降に知的障害が判明するケース
本事例では請求人の年齢は30歳で知的障害が判明したのが29歳の時なので20歳以降に知的障害が判明したケースに該当します。この様なケースは幼少期から発育期にかけての知的障害に関するエピソードが重要になります。その情報は診断書に記載して貰ったり病歴・就労状況等申立書に記載したりします。
本事例では幼少期から発育期にかけてのエピソードを丁寧にヒアリングすると、算数が全くできなかった、拒食症傾向(成長不良)、極端なこだわり、コミュニケーションが同世代とかみ合わない等が確認できたのでそれらを病歴・就労状況等申立書に記載しました。
「うつ病」と「知的障害」の関係性
通常障害年金は請求する障害毎に初診日の特定が求められます。例えば「うつ病」と「糖尿病」で請求する場合、双方に相当因果関係がない場合、両者は別傷病となりそれぞれで初診日の特定を行う必要があります。もし、初診日の特定ができないとその障害での請求は不可という事になります。
「うつ病」と「糖尿病」との間に相当因果関係はなさそうですが、「うつ病」と「知的障害」はどうでしょうか?そこを整理したのは「給付情2011-121」になります。これは、知的障害や発達障害等を含めた精神疾患が実務上、重複、併存することが多いことにかんがみ行政の方で整理をした資料になります。確かに私の経験上も知的障害のみと診断がついている人もいますが、多くの人が「知的障害」と「発達障害」、「知的障害」と「不安症」、「うつ病」と「発達障害」等複数の精神疾患を重複している人とをよく見るので、この資料は実務をする上で参考になります。
「知的障害」と「うつ病」の関係を整理したのは以下になります。
知的障害」が初診でその後「うつ病」が発覚したケースしか書かれていませんが、「同一疾病」扱いと記載されています。つまり、「知的障害」と「うつ病」は同じ傷病として扱われることになります。
本事例においては「知的障害」と「うつ病」で申請しても「うつ病」は知的障害と同一傷病という扱いになるので初診日はあくまでも「知的障害」の出生日で進めました。正直、どのような審査が行われたかは分かりませんが、少なくとも「うつ病」の初診日の特定がなされていない状態で障害年金の受給が決定したということは初診日が「知的障害」の出生日として認定された可能性が高いと考える事が自然であると思わせられる事例でした。
終わりに
冒頭でも説明しましたが、障害年金において保険料の納付要件は絶対でそれをクリアしないと年金支給はありえません。しかし、保険料未納を唯一回避できる手法が20歳以降に判明した知的障害で請求する方法になります。当然ながら万人受けする請求方法でないのは確かですが、長期の精神病で悩まれている方や長期の引きこもりの方などは当てはまる可能性もあります。その可能性を手繰り寄せるためにも少しでも可能性があるならチャレンジしてもよい請求方法かもしれません。少しでも無年金者を減らす手法としてのご提案です。もし、可能性がある場合は是非検討してみてください。