事業場外労働みなし制度は知っていますか?

労働基準法38条の2に規定されている制度で中小企業では多く採用されています。事業場外の労働において事前に決めていた時間、働いていたとみなす制度です。

原則、使用者には労働時間を把握する義務が課せられます。しかし、営業職等一度外に出てしまうと労働時間の管理が難しい職種もあります。そこで、法は事業所外での労働に際して労働時間の算定がし難い場合、事前に決めていた時間働いたとみなす制度を設けています。

勘のいい方はグレーな規定と思われる方も多いと思います。現に裁判でも運用方法を間違い会社が負けているケースが多いですが、きちんとルール決め・対象の選定を行えば使い勝手の良い制度です。

 

 

① みなし労働時間の形態

 

1. 所定労働時間みなし(法38条の2 本文)

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。

労働時間の全部または一部が事業場の外(例えば、事業所外での営業等)で就労の場合、所定労働時間労働したとみなす制度です。所定労働時間が8時間なら8時間労働、所定が7時間45分なら7時間45分就労したとみなします。もし、所定労働時間を超えて労働させたい場合は下記の23を活用します。

 

2. 通常労働時間みなし(法38条の2 第1項但し書き)

ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

所定労働時間を超えて就労する可能性がある場合、その業務を遂行するに必要な時間労働したとみなす制度です。例えば所定労働時間が8時間で、その業務を行うに9時間必要ならば、通常必要とされる労働時間は9時間となります。(1時間は時間外労働で処理)

3. 労使協定みなし(法38条の2 第2項)

前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。

先の2でも出てきた業務遂行に通常必要とされる時間を、過半数労働組合又は労働者代表の間で書面による協定(労使協定)を結び決定する方法です。

考え方は2と同じですが、2は会社が設定した時間、3は労使協定で結ばれた時間です。当然ながら労使の話し合いが行われている以上、後々裁判などで決められた時間が覆る可能性は低くなります。安定性を考慮するなら3で手続きを進めることをお勧めします。

                            ↓ポイント

労働時間を算定し難い業務が何時間分の業務量に該当するかにより、上記の中でどれを選択するか変わります。

外勤業務の業務量が所定労働時間を下回ることが大いに予想される場合は、所定労働時間みなしでも問題ないと思います。所定労働時間を常に超えそうな場合は、業務遂行に必要な労働時間をみなす必要が生じます。例えば8時間30分程度の仕事量が予想できる場合、通常必要とされる時間は8時間30分で、法定労働時間を超えているので労使協定みなしが必要になります。

例えば、外勤の業務量が7時間分の場合、所定労働時間みなしでも問題ないと思います。しかし、業務量が9時間分もあるのに、所定労働時間みなしを適用すると、後々労使紛争になる可能性もあります。もし、業務量が微妙な量ならば労使協定みなしを採用し労使で話し合い納得できる時間を活用するのも一つ方法です。

 

② 実務上のみなし労働時間のポイント(判例と通達より)

労基法や通達でも労働時間が算定し難い例示はありません。例示されているのは労働時間が算定できる可能性がある事例です。労働時間が算定可能な事例を紹介し、そこから判例を交えて労働時間が算定しがたい場合を検討します。

 

通達 昭和63年1月1日基発1号 による労働時間を算定しがたい事例

 

1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

常にグループ行動の場合は労働時間の算定が可能と考えるのではなく、そのグループの中に労働時間の把握義務が課せられた者がいるかどうかになります。代表的なのは直属の上司などです。そのため、同レベルの社員とグループで行動しても直ちに労働時間の算定が可能になるとは通達の上ではありません。ただし、ワークスアプリケーション事件(東京地判平26.8.20労判111184頁)では、先輩社員(上司ではない)と同行していた事実をその社員に確認すれば労働時間の管理が可能と、みなし労働時間を否定する一つの要素として判断しています。そのため、運用上は単独行動の場合のみ、みなし労働時間を適用することは一つの運用方法です。

 

2. 事業場外で業務に従事するが、無線やポケベル等によって随時使用者の指示を受けながら行動している場合

携帯電話がある=労働時間の把握が可能にはなりません。ここでは、随時業務指示を受けながら労働しているケースが労働時間の算定可能であると判断しています。会社が指示を出していなくても例えば定期的に業務報告を電話やライン等で求める場合は、労働時間の算定が可能と判断される可能性は高まります。

実務では、会社から外勤中には基本連絡は緊急対応以外行わない、一方労働者側も緊急対応等以外の定期連絡は不要とルール決めておけば、随時指示を受けながら業務に従事しているには当たらないと思います。

 

3. 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示通りに業務に従事し、その後事業場に戻る場合。

行動パターンが、時刻を含めて相当程度に管理されている場合、会社も一日の外勤の予定が把握できる以上、労働時間の算定し難いには当たらない可能性があります。

3の要件のクリアが一番難しいともいます。あらかじめ、会社で計画を立てて予定通りに営業先を訪問する形態は大まかな労働時間管理が可能との判断が働きみなし労働時間制度の適用が否定される可能性があります。3の要件をクリアする例としては、売上高等の部門の目標を立て、目標達成のプロセスについては労働者の判断に任せるような働き方です。必然的に労働者の自己判断で行動できる=経験ある職員、でないと3の要件を満たさない可能性は高くなります。

実務的には、営業職へのみなし労働の適用は、会社が認めた人材とすることで対象者の選別が可能です。裁判では経験の浅い職員に対しても一律でみなし労働時間制を適用し訴えられているケースが多いです。未経験者は会社の命令通りに動かないと仕事ができないと、現に会社も逐一労働者に指示を出していたのでその様な事実認定が行われたのでしょう。この制度を運用するにあたり対象者をしっかり選定することは重要です。

 

判例から見る労働時間の算定し難い事例

阪急トラベルサポート事件 最判平26.1.24 労判10885

 旅行会社の添乗員の添乗業務が、労働時間が算定し難い時に該当するか判断されました。

裁判所は、「業務の性質・内容やその遂行方の様態等」「旅行会社と乗務員間の業務に関する指示および報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を事実認定した上で、みなし労働時間の適用を否定しました。

観光バスの添乗員なので、ツアー中は旅行計画通の行動が求められ、旅行前もツアー準備、旅行終了後は会社へ提出する添乗日報により、業務の遂行状況等の詳細かつ正確な報告を課し、その報告内容を関係者に確認することで正確性の確保ができる点から労働時間の把握は可能であると判断されました。

                          ↓この判例から以下の論点が導き出されます。

 

① 会社と労働者以外の第三者との関係性

上記判例なら会社は旅行会社、労働者は添乗員、お客はツアー客です。添乗者は旅行契約通りにツアー客を案内する義務を負い、予定通りにツアー案内できない場合は債務不履行を構成する関係にあるとし、労働者に裁量権はなく会社は労働時間を把握できると判断しました。これを営業に当てはめると、多少顧客訪問に遅れても債務不履行は構成しないので、労働者は時間に対する裁量権があると判断できみなし労働を適用する余地は残ります。ただ、営業においてもこの時間に必ず会社訪問しないといけない場合は、その部分については労働時間把握ができるのでみなし労働時間を適用する余地はないと考えることになります。

② 業務内容の報告について

上記判例では業務終了後に詳細な添乗記録の報告を求め、その中身の確認を関係機関(お土産屋さんや観光施設)に行うことができることから、添乗記録の中身の正確性が担保できると判断し労働時間の把握は可能としています。これを営業等に落とし込むと、お客さんや取引先である営業先に何時訪問し、何時間滞在したと逐一確認は難しいので、労働時間の把握は日報などでできてもそれの正確性まで確認することは難しいとの判断から労働時間の把握は困難であると判断できる可能性があります。ただし、事細かに1日のスケジュールを把握するということは労働時間管理が事後的に可能なことを意味しますので、注意は必要です。

 

結論

みなし労働時間を採用する際の方法

法定労働時間を超えるかどうかに関わらず、労使で話し合いみなし労働時間を決定する労使協定みなしを採用することをお勧めします。

みなし労働時間を採用する際の実務ポイント

① みなし労働時間の対象者を絞る。営業職全員をみなし労働の対象にするのではなく勤続年数〇年以上の労働者や、会社が認める労働者など絞る必要があります。業務経験が浅い職員は自己判断で行動できない可能性があります。みなし労働時間で適用が否定されるのは大体経験の浅い職員からの訴えです。

② 会社から逐一業務指示を出さない。労働者にも逐一報告を求めない。労働者の自己判断で業務を進めてもらう。携帯電話の保有の有無はあまり完成有りません。

③ 単独での営業業務のみ、みなし労働時間を適用させます。グループ勤務の場合、労働時間が把握出来る可能性があるため。

④ 業務日報は提出させて良いが、事細かに求める場合は労働時間が把握できると考えられる可能性があります。

⑤ 出退勤に際してタイムカードを押してもらうの問題ありません。また論直行直帰でタイムカード無しでも問題ありません。