メンタルヘルス対応 休職制度の解説
休職制度は好みの分かれる制度で設定している会社とそうでない会社に分かれます。歴史ある会社は休職制度がある場合が多い様に感じますが、就業規則のメンテナンス不足で未だに結核等を念頭に制度設計されているものを活用している場合が多いです。
ここでは、現代の休職原因の1番である精神疾患を念頭に置いた休職制度について少しお話ししていこうと思います。
休職制度の有無
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の2020年7月の調査「企業における福利厚生施策の実態に関する調査」によると企業の62%が病気休職制度を設けていると調査結果を公表しています。62%をどの様に感じるかは主観によりますが、休職制度は労働基準法で規定することを会社に義務化している訳でない点を考えると導入割合は高いと感じています。そのため、休職制度が設定されていなくても労基法違反の問題は生じません。因みに私が就業規則の納品をさせて頂く際は、相手の意向は伺いますが創業間もない会社や50人未満の会社が多いので休職制度の導入はあまり勧めてはいません。理由は後でも説明しますが、休職期間中も初回保険料の負担が継続して発生するからです。
そもそも休職制度とは何?
休職制度の目的は「解雇の猶予措置」にあり、合法的に病気休業者を退職させる制度になります。就業規則の退職理由に「休職期間満了に伴い復職できない場合」と規定されていることに起因します。つまり、休職しても傷病が改善せず就労できる状態に達しない場合解雇ではなく自然退職してしまうのです。解雇は労働基準法20条解雇予告の規定が適用されますが、「退職」なのでそれが適用されません。実際にこの退職で労使紛争が生じた場合はここでの「退職」は「解雇」と同じ基準で判断されるので、実際は「解雇」している様になりますが、就業規則上は「解雇」でなく「退職」なので労使紛争が生じない場合は自然退職として扱われます。
では、なぜ「休職期間満了に伴い復職できない場合」に退職になるのでしょうか?
常識的な発想ですが、法的な側面から少し説明します。労働契約の関係は労働者が労働を提供して賃金を支払う、一方会社は労働者が提供した労働力を受け入れ仕事をさせその対価として賃金を支払う関係になります。もし、労働者から労働力が提供されないとどうなるでしょうか?当然ノーワークノーペイの原則により賃金を支払う必要はありませんが、いきなり契約解除(解雇)もできません。では、そのまま長期欠勤もまま放置するのでしょうか?それは会社の労務管理としての姿勢や他の労働者の眼もあるので問題です。そこで、就労不能の理由をカテゴライズしてそれぞれのカテゴリーで管理しようとした制度が休職制度になります。休職事由は病気やケガによる私傷病休職や起訴休職(刑事事件に起訴されたものを一定期間休職とする制度)や休職理由が本人の都合による欠勤による休職(自己都合休職)等様々存在しています。
本来労働力を提供しない労働者は解雇するが、いきなり解雇はできないので休職制度という別の手法で管理して、休職事由が消滅すると復職になるし、消滅しない(休職期間内に就労できる状態まで改善しない)と退職とすることで、会社の規律を守り(もし、休職制度が無いとずっと欠勤の状態になってしまいます。労働契約の本旨が労働力の提供にあるのでそれが履行されない状態が継続するのは労務管理上問題)、かつ労働者にも復職に向けてのチャンスが与えられるが、そのチャンスを生かせないと合法的に退職させるという制度が休職制度です。
休職制度のメリット・デメリット
会社のメリット
① 休職満了者を解雇でなく退職で処理ができる。(紛争になれば解雇権乱用法理の適用あり。)
② 長期欠勤者という労働契約、就業規則違反者を出さなくてよくなる。
休職制度はない状態での欠勤はただの欠勤扱いとなります。他の労働者にも長期欠勤が許されるという誤ったメッセージを発する可能性があります。休職制度があると、会社のルールに沿い労務管理していると言えることができます。
会社のデメリット
① 社会保険適用者の場合、社会保険料の負担が重いです。社会保険料は現在約3割で、その3割を労使折半で1.5割ずつ負担していますが、社会保険料の請求は会社に来ます。休職中労働者に賃金が発生していないことが多いので労働者負担分を会社立て替えて支払うことになります。1か月や2か月なら良いですが、長期にわたるとその社会保険料負担は大きくなります。立て替えた分を労働者に請求するのは会社の当然の権利ですが、給料が無い労働者に請求しても回収できない場合もあります。傷病手当金は受給できますが給料の2/3しか保証されないので保険料の支払いまでに手が廻らないケースも多いです。
地味に大きい社保負担を会社が被る可能性があるので、私が休職制度を進めない理由です。
② 変な休職規定を設けるとそれに拘束される。
昔からある休職規定や大企業並みの休職規定は現在多く見られる精神疾患に対応していなかったり、会社の実態に合っていなかったりするケースがあります。
多いのは期間で無駄に長く1.5年など休職期間(傷病手当金の期間にあわしている)を設けている場合があります。長期の休職期間は労働者には有利ですが、会社にとっては上記①の問題もあるので期間が長ければ長いほど保険料負担が増します。
精神疾患は再発しますが、その再発に対応していない規定もあります。一度復帰したら過去の休職実績はリセットされ再度休職期間がスタートする等の規定もあります。