精神疾患を念頭に置いた休職制度解説 ②

 

休職制度を検討する際のポイント

 

① 休職制度の目的の設定

休職制度の目的を従業員の身分保障に置くのか?それとも解雇の猶予措置制度とするかで休職期間が変わってきます。身分保障とする場合は従業員としての身分をできるだけ保証させようとするので休職可能期間は長くなります。期間は会社毎での設定になりますが1年以上長期の休職期間にわたることも少なくありません。一方で解雇の猶予措置として休職期間と設定する場合、労働基準法21条 解雇予告の30日を念頭に設定していくことになります。1か月から6か月の範囲内で休職期間を設定している場合が多いです。ここでの注意として休職期間は最低でも解雇予告の30日を下回らない様に設定します。

② 休職中の給料

休職中の給料を支給するかどうか、中には正社員は休職期間中も給料を支給するが、契約職員には支給しない様な会社もあります。以前はその様な労務管理も雇用形態の違いから是認されていたでしょうが、令和34月から施行された同一労働同一賃金は正規非正規の不合理な待遇差の是正を求めています。正社員は有給、非正規社員は無給という合理的な理由が見いだせないなら非正規社員も有給で処理しないとトラブルになる可能性があります。休職期間中は健康保険に加入していると傷病手当金が受給できるので金銭が全くゼロになることはありません。逆に給料を支給していると傷病手当金が受給できなくなります。可哀そうだから一部給料を支払うというのもその分傷病手当金が減るのであまり意味がありません。

③ 復帰のタイミングをどの様に判断するか?

後でも詳しく説明しますが、復帰のタイミング、つまり休職事由が完全に消滅したという事をどの様に証明していくか、労働者が証明するのか、会社が判断するのか、規定の作成方法が重要になります。

多いのは休職事由が消滅したら復職するが、消滅しない場合は退職か継続して休職する等の規定の場合、だれが、何を基準に、どの様に判断するのか不明です。この様にアバウトな規定はトラブルが発生する可能性があります。

④ 休職命令権かそれとも休職請求権か?

休職命令が会社の権利なのか労働者の権利なのか重要です。どちらが権利を有するかで労務管理方法が180度変わります。通常休職請求権は会社の権利として設定しておくべきものです。労働者に請求権がある場合、休職請求を主張されると休職させない選択肢はありません。人員配置の都合等もあるので休職請求権は会社に保有させておくべき規定です。

 

復職のタイミング 休職事由の消滅=傷病の治癒のタイミング

復職をどのタイミングで認めるか非常に重要な論点です。

一般的に治癒とは労働契約で締結した業務内容(「通常の業務が遂行できる程度の健康状態までに回復している事」)をこなすことができるようになることを差します。

「通常の業務」の定義は不明確ですが、休職までに担っていた業務に必ずしも復帰できるまでは求められていないようです。その点ゼネラリストの事例ですが、片山組事件(最判平10.4.9)では、労働者が疾病のためその命じられた業務のうち一部の労務の提供ができなくなった場合においても、その能力、経験、地位、使用者の規模、業種、労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつその提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当であると判断しています。要はスペシャリスト(職種や業務内容を特定して雇用されている)ではなくゼネラリスト(職種や業務内容を特定して雇用されていない)の場合、現に命令された業務への復帰できなくても、それ以外の業務で復帰できる能力があるならその形で復帰を認めないといけないと判断しています。

この判例の基準で考えると新卒一括採用や第2新卒などで採用されたゼネラリスト的な労働者は休職前の仕事ではなくそれ以外の仕事に復帰できる可能性があるなら、傷病は治癒したと考えて復職させなければならないことになります。一方で、スペシャリスト的な労働者の場合は、特定の業務を行う為に雇用契約を結んでいる以上、その仕事での復職が前提になると考えるので、休職期間満了の際に契約内容の職務に復帰できるまで傷病が治癒している必要があります。

治癒の6要素について

以下は『労働契約解消の法律実務 第3版 』より引用です。

① 始業・終業時刻を守って所定労働時間働けること

② 独力で安全に通勤できること

③ 通常の業務遂行に当たって必要となる機器を支障なく操作できること。

工場であれば、安全に機械装置を操作できること

④ 他の従業員とコミュニケーションをとって協調して仕事ができること

⑤ 時間外労働ができること

⑥ 国内出張ができること

弁護士の石嵜氏は休職から復職に至る際の条件としてこれら6要件を掲げています。

 

裁判でも治癒に関して争いがあるので、この様に少しでも具体的な治癒の要件を記載することで、無用なトラブルを防止することが可能になり