⑴ まえおき

相当因果関係が有れば前後の傷病(障害・疾病等)は同一傷病となります。後発傷病は前発傷病との連続性があると判断され後発傷病の初診日は前発傷病の初診日となります。もし、前後の傷病に相当因果関係が「ない」と判断されると前後の傷病は別々の傷病になります。なので、後発傷病で初診日を求めて障害年金の請求をしたり、もし、後発傷病と前発傷病で範囲が被っているならば前発傷病の障害程度だけ差引されて後発傷病の障害認定がされたり、前発傷病と後発傷病での区別がつかないので請求不可となったりします。

相当因果関係の有無は医学的な視点から判断され、医学的にも前後の傷病の連続性が認められる場合は相当因果関係が有ると判断される傾向にあると思います。

以上が相当因果関係の理論ですが、正論だと思います。ただ、その正論をつき進めていけば請求人が非常に不利益な立場に置かれる場合もありますそこで、ここではこの不利益を回避する社会的治癒という考え方について説明したいと思います。

 

 

⑵ 社会的治癒とは

社会的治癒とは医学的には治癒したとは言えないが治癒と同様に扱い、再び悪化して医師の診療を受けた日を新しい初診日とする考え方です。抽象的な表現なので以下で具体的に説明します。幼少期に「軽度の熱性けいれん」が頻発していたので医師の診察を受けて治療を受けていた。その後成長とともに熱性けいれんの発作が収まり、医師から通院・服薬の必要性はないと言われ受診を終了する。数年が経過し社会人になりサラリーマンとして就労し始めたあたりから再度けいれん発作が頻発し病院に行くと「てんかん」と診断されたという事例です。

このケースで「てんかん」と幼少期の「熱性けいれん」に相当因果関係にあれば「てんかん」の初診日は幼少期の熱性けいれんで病院に受診した日になります。医学的に「てんかん」と「熱性けいれん」に因果関係が有るかといえば判断が分かれると事だと思います因果関係があるならば初診は「熱性けいれん」の時になります。

社会的治癒はその因果関係を断絶する役割を持ち医学的には「熱性けいれん」と「てんかん」は相当因果関係が有るかもしれないが、社会的に見て幼少期には痙攣発作も収まり、その後大学まで卒業し就労しているのだから社会的に考えれば「熱性けいれん」が完治していると考えその後の「てんかん」との因果関係を否定します。なので、障害年金を請求するならば「てんかん」で病院に通院した日を初診日と考えます。

初診が「熱性けいれん」となることで次の点で影響を与えます。①請求できる年金の違い(20歳前の障害基礎年金か障害厚生年金か)②保険料の納付要件が問われるか、問われないか(20歳前の障害基礎年金は保険料の納付要件は問われない、一方障害厚生年金は保険料の納付要件が問われる。)③初診証明の取りづらさが変わる(幼少期の初診証明をとるのはカルテ破棄の可能性もあり困難)これらはケースバイケースです。例えば厚生年金期間中に初診日はあったがその初診が社会人になりたてのころで学生自体国民年金保険料を滞納していたケースなど障害厚生年金の請求になりますが保険料の納付要件を満たさずに年金の請求自体出来ません。なので一概に社会的治癒を主張するのが良いとは思いませんが、主張した方が有利な場合が有るのは事実です。社会的治癒を活用するかどうかは全体の流れを見ての判断になります。

 

 

⑶ 社会的治癒の要件

ここでは社会的治癒の発生要件について説明します。社会的治癒は発生要件が明確に定義されている訳ではありませんが、実務では次のような要件を満たす必要があると考えられています。① 治癒していないこと ② 相当な期間医療を行う必要がないこと

③ その期間就労や日常生活を普通に行っていたこと ④ 医療の中断が自己判断で中断した者でないことが挙げられます。

 

②の相当期間医療に受ける必要が無いとは3年、5年以上は必要であると感じます。私が以前「てんかん」の事例で社会的治癒を主張したときは20年ほど期間が空いていました。

 

⑷ 実務での社会的治癒の運用方法

① 社会的治癒の主張自体が不要なケース

具体的にどのような場合に社会的治癒を主張するか問題になります。例えば幼少期に熱性けいれん発作があったが、現在の主治医はそのことを知らないと仮定し現在の「てんかん」の発生原因が特定されているケースを考えます。

この場合、わざわざ病歴就労状況申立書に幼少期に「熱性けいれん」があったと記載する必要はないと考えます。もし、書いてしまえば「熱性けいれん」と「てんかん」の因果関係が問題になる可能が十分に予想されます。

社会的治癒は現症の障害状態に関係する様な疾病・障害等があり、その事実を主治医が知りかつ、現在と過去の疾病に因果関係が有るような場合に活用する技法と私は認識しているので上記の例では病歴就労状況申立書に記載する必要はないと考えます。

② 社会的治癒の主張をするケース

「熱性けいれん」と「てんかん」との間に何らかの因果関係が有り、かつ幼少期の熱性けいれんの事実が「てんかん」の診断書に記載される場合は社会的治癒を主張することで「熱性けいれん」と「てんかん」との因果関係を断つことができる場合があります。もし、そこで社会的治癒を主張しないと「てんかん」の初診日は「熱性けいれん」の初診日となる可能性があります。そうなると、初診日が20歳前なら20歳前の障害基礎年金となり保険料納付要件が外れる一方、障害厚生年金の請求等ができなくなります。最終的には医学的な根拠を踏まえ自分に有利な選択をすることになります。

社会的治癒の主張方法ですが、以下の方法が考えられます。

① 診断書に記載してもらう。②病歴就労状況申立書に記載する。③ 社会的治癒を主張する期間日常生活、就労生活を円滑に送ることができていた事実(証拠)を提出する。

 

① に関しては医師に診断書の「熱性けいれん」と「てんかん」との間に因果関係があるか確認し、無ければ「因果関係はない」と記載してもらいます。もし、可能であるなら診断書に社会的治癒の要件も記入してもらえればベストだと思います。(その間、日常生活も問題なく送れていた等です。)

②に関しては幼少期からのエピソードごとに節目節目で「熱性けいれん」と「てんかん」との因果関係に関して否定をしていきます。ただ、「なし」と否定するのではなく「熱性けいれん」による通院を中断した経緯等、医師がどの様に判断し中断の判断をしたのか等を記載していきます。また中断後問題なく日常・就労生活を送れてきた事実も記載します。

③に関しては任意ですが、例えば幼少期は「熱性けいれん」があり運動などに気をつけていたが、その後不安が無くなり部活などで優秀な成績を収めたケースを考えます。もし、部活などで賞状などもらったのなら、それを提出することで「その間激しい運動に耐えれていた証拠」になります。また通信簿の欠席・遅刻・早退欄も「休まず登校できていた。」という証拠になります。