障害年金において相当因果関係は初診日と同じぐらい重要です。
 例えば複数の疾病や障害が有る場合、相当因果関係の有無で初診日が変わり予期せぬ不利益を被る可能性もあります。
 逆にここを理解していれば、自分の有利に年金請求できる場合もあります。ここでは相当因果関係について説明します。
 医学的な問題も絡み難しい部分なので気になる方は一度ご相談ください。

⑴ 用語説明

相当因果関係は、前の疾病又は負傷がなかったならば後の疾病が起こらなかったであろうというような原因と結果の関係と説明されます。よく言われているのが原因には疾病又は負傷が含まれているが、結果は疾病のみで負傷は含まれないという点です。具体的に言うと統合失調症(疾病)により認知機能が低下している状態で転倒して骨折(負傷)した場合

これは相当因果関係が「ない」と言えます。

逆に相当因果関係が「ある」と考えられるのが、交通事故(負傷)により高次脳機能障害(疾病)が生じているケースです。

⑵ 相当因果関係が障害年金に与える影響

次に相当因果関係の有無が障害年金にどのような影響を与えているか説明します。

相当因果関係の考え方は非常に重要で、相当因果関係が「ある」と考えられる場合、前後の傷病等は同一の傷病と考えられることになります。

先の例で考えると交通事故と高次脳機能障害に因果関係が「ある」ならば交通事故の高次脳機能障害の初診日は高次脳機能障害と診断された日ではなく交通事故にあった日が初診日となります。もし、両者に相当因果関係がないならば高次脳機能障害の初診日は高次脳機能障害の症状が出始めたときや高次脳機能障害と診断された日になります。

もう少し上記の例を具体的に説明します。

相当因果関係の有無は、前後の傷病が同一傷病として考えられるか否か、そして初診日の日付とその後の障害認定日の日付にも影響を与えます。

例えば先の例で令和21月に交通事故があり、その後令和28月に高次脳機能障害の症状が認められたとします。もし両者に相当因果関係が認められるならば高次脳機能障害の初診日は令和21月で障害認定日は令和37月になります。相当因果関係が認められない場合は高次脳機能障害の初診日が令和28月で障害認定日は令和42月になります。相当因果関係の有無により初診日の日付がことなり、それは障害認定日の違いに直結し結果障害年金の申請時期に影響することになります。

⑶ 相当因果関係「なし」の場合の影響

相当因果関係が認められない場合、初診日と障害認定日が変わると説明しましたが、それ以外にも以下の点で影響が生じます。どちらかといえばこちらの方が問題です。

相当因果関係が「ない」と判断された場合に前後の傷病は無関係となるので後の傷病(請求する傷病)から前の傷病の障害の程度を差し引かれて障害の程度が認定される可能性があります。

例えば、先天的(前発)に右腕に障害等級3級程度を有している状態で、事故(後発)で右腕に障害等級1級程度の障害が残った場合、両者に相当因果関係がないと前後は別傷病となります。後発の障害には元々前発の3級程度の障害が含まれているので後発の障害認定の際に前発の障害程度を除いて認定される可能性があります。

差し引いて認定してくれればまだよいですが、前後の傷病の障害程度が判別できない場合は最悪の場合審査不能で請求棄却になる可能性もあるので注意が必要です。

 

⑷ どの様な場合に相当因果関係があると認められるか?

相当因果関係は聞きなれない用語と思いますが、語源は民法で一定の範囲に損害賠償の範囲を確定させる考え方です。

風が吹けば桶屋が儲かるの様な「あれなければこれなし」の関係で因果関係をとらえると範囲が非常に広がってしまうので、相当因果関係を採用し社会通念上経験的に結果の発生が通常であると考えられる場合相当因果関係が有ると判断されます。

ではこの社会通念上経験的とは何を指すのか問題になります。私も色々な障害年金の文献を見てきましたがこの相当因果関係に関して明確に説明している書籍は非常に低く、どのような場合に相当因果関係が認められるか正面から議論している書籍はあまり見たことがありません。その中で最近発刊された「社会審査会採決例から考える障害年金」において「経験上通常である場合」は「医学的に判断してその疾病または負傷に内在する原因が後の疾病を引き起こすことが明らかである」と明言しています。疾病・負傷などの因果関係なので医学的な物差しで見るのが当然の結果といえば結果ですが、今までの障害年金の書籍はこの点を真正面から論じずに避けてきた嫌いがありました。

 

ただ、医学的に判断すればすべて前後の傷病に因果関係が有るかといえばそうはなりません。過去の事例においても医学的には因果関係が有ると考えられるものでも相当因果関係が否定されるものは多々あります。

① 高血圧と脳出血・脳梗塞

② 糖尿病と脳出血・脳梗塞

③ 近視と網膜剥離等

 

一方で保険者(厚生労働省)側が事前に相当因果関係が有る可能性が高いものと例示しているケースもあります。

① 糖尿病と糖尿病性網膜剥離、糖尿病性腎症、糖尿病性壊疸、糖尿病性神経障害

② 肝炎と肝硬変

③ 結核とその化学治療法による副作用としての聴力障碍

④ 手術等による輸血と肝炎

⑤ 事故または脳血管障害による精神障がい

⑥ 肺疾患にり患し手術を行い、その後生じた呼吸不全

⑦ 移転製悪性新生物は、原発とされるものと組織上一致するか否か、移転であることを確認できた場合

相当因果関係は医学的に見て前発から後発が生じる可能性が非常に高い場合に、つまりは多くの医師が因果関係「あり」と認めている様な事例で認定される可能性が高いと考えます。この人だけ偶々繋がった程度では相当因果関係は「なし」と判断される可能性は高いと思います。

⑸ 実務においての相当因果関係の進め方

① 相当因果関係の有無で請求できる年金、初診日、保険料の納付要件、障害認定日などを事前に想定しておきます。⇒どこで請求するのが有利かどうか事前に把握しておく。

② 主治医に前発障害と後発障害の相当因果関係の有無を確認します。

② 診断書に可能な範囲で相当因果関係の有無に関して記述をしてもらいます。

③ 請求人も自身で医学的文献を参考にしながら相当因果関係の有無について調べ、その内容を病歴就労状況申立書等に落とし込んでいきます。

④ 最終的に相当因果関係の有無と障害認定は保険者(厚生労働省)の医師により行われます。

 

⑹ 事例紹介

最後に相当因果関係の具体的な事例を紹介します。

平成23年(厚)第179号 平成24229日採決より

事件の概要

請求人は左大腿骨骨肉腫から腫瘍広範囲切除人工関節置換手術を行い、長時間経過後に膝人工関節周囲感染症にかかります。そこで膝人工関節周囲感染症で診療を受けた日を初診日として障害厚生年金の事後重傷請求を行った事件です。保険者はこの一連の疾病に相当因果関係があり初診日は左大腿骨骨肉腫で初めて病院にかかった日とし不支給としました。請求人は人工関節置換後、相当期間経過していることから膝人工関節周囲感染症との相当因果関係はなしとの理由で審査請求を行っています。

この事例の争点は請求人と保険者で真っ向から初診日の時期で対立している点で、この違いは相当因果関係の有無から来ます。相当因果関係がダイレクトに年金受給可能性に影響を与えている点で勉強になる事例だと思います。

因みに、この事件においては医学的に長時間経過後の感染症は医学的にもまれな事との理由で因果関係を否定し障害厚生年金の請求を認めています。