知らないと損する社会的治癒。社会的治癒を活用し請求を有利に進めていきましょう。
前回 過去の傷病が治癒し同一傷病で再度発症している場合は、再度発症し医師等の診療を受けた日を初診日となると説明しましたが、医学的には治癒していないが社会的に見て治癒と同程度の状態で過ごせている場合、治癒として認められるのでしょうか?
治癒として認められるこの考えを社会的治癒と言います。障害年金はもとより健康保険の傷病手当金等でも活用される考えです。
『国民年金障害等級の認定指針』(社会保険庁年金保険部 監修 厚生出版社 1688 33頁)によると、社会的治癒とは、「医学的な治癒に至っていな場合でも、社会保障制度の行政運用の面から社会的治癒が認められない場合、治癒と同様の状態とみなす取り扱いであり、同一傷病かどうかの判断の下になるものである。」と説明されています。この社会的治癒の問題は年金事務所のマニュアルなどに載っていない考えで請求者が積極的に訴えていかないと認められない理論になります。
そのため、高校生の頃に数回精神科に通院したが、その後回復して精神科の通院を中断し、その後大学、社会人を経て10年以上経過した後仕事のストレスで再度精神科を受診したケースでは社会的治癒を主張しないと高校生の頃の通院が初診になる可能性が有ります。
社会的治癒を主張し、もし認められると初診日は厚生年金期間中に再度精神科に通院したときになります。
社会的治癒の要件
社会的治癒の要件としては「医療を行う必要がなくなって社会復帰していることをいい、薬事下又は療養所内にいるときは一般社会における労働に従事している状態にある場合でも社会的治癒とは認められない」(昭4.2.5.2庁文発第4885号)という通達が参考になります
上記の通達を踏まえて社会的治癒の要件は以下になります。
① 社会的治癒は医学的治癒とは別概念
② 一定の年数が必要になる。
③ その間に、一般的な社会生活を送ることができている。(就労に限らず、学業、育児・家事等も含む。)
④ その間に、通院・服薬がない事(ただし、通院、服薬が有っても社会的治癒が認定されている場合はあります。)
②の年数は4.5年以上と言われていますが、具体的な基準は当然ながら示されていません。
③の「一般的な社会生活を送ることができている」は、事実の主張になります。例えば上記例で考えると受験勉強を頑張った、大学に進学した、会社に就職した、会社で昇進した、重要なプロジェクトを担った、結婚した、子育てした等の事実の主張を行う必要があります。その主張方法は① 病歴就労状況申立書に書き込む ② 写真を活用する。(昇進の辞令、表彰式での写真、資格試験の合格証書等)③ 診断書に記載して貰う等が考えられます。
社会的治癒の実際の活用事例
以前私が申請したケースで社会的治癒が認めら、後の初診が障害年金の初診日であった事例を紹介します。
請求者は幼少期熱性けいれんが起きており小学3年生頃まで小児科で熱性けいれんの治療を受けていました。その後、治療のお陰で医師から通院不要と診断を受けてそれ以降熱性けいれんが発生することも通院することもありませんでした。その後、中高大学を経て地方公務員として就職し業務に従事していました。精神科に通院したのはその公務員として就労していた時期で入社して数年経過した時期でした。業務上のストレス等で軽度のてんかん発作とうつ傾向が見られての初診でした。初診の病院は廃院となっていたので2番目に通院した病院で「受診状況等証明書」を作成してもらいました。その証明書を確認すると小学生の頃の熱性けいれんの話が記載されていたのです。
ここで私は初めて熱性けいれんが幼少期にあったことを知りました。もし、2番目の病院に熱性けいれんの記載が無ければ私自身その話を知らなかったし、1番目の病院は「受診状況等証明書を添付できない申立書」を提出して、2番目の病院で「受診状況等証明書」をつけて1番目の病院を初診で請求していました。しかし、2番目の病院に幼少期の熱性けいれんの記録が記載されていたのでそのままその事実を放置して請求すると十中八九底を指摘されるので社会的治癒を主張したという流れでした。請求人から話を聞くと熱性けいれんは完治している、大学も学業やサークル活動に全力投球できていた、公務員試験も無事突破したという事実から社会的治癒が主張できると考えました。結果は無事社会的治癒が認められ後発の受診を初診として障害共済年金が支給されました。
社会的治癒の方法は①診断書に記載して貰う(現症のてんかんと幼少期の熱性けいれんの関係について) ②病歴就労状況申立書に初診の状況から公務員時代に受診するまでの間をしっかり記載する。③添付資料として大学時代に取得した合格証や高校時代の成績等です。資料は膨大になりましたが無事認められました。社会的治癒の主張をする際には資料は増加傾向になりますが、それは致し方ありません。障害年金は任意で請求人の主張を補強する資料を提出することが認められています。任意提出書類を積極的に活用して主張の補強を行いましょう。
社会的治癒の積極的な活用
社会的治癒は行政側のマニュアルにはない概念なので、請求者側が知らないとまず行政から案内される可能性はありません。いざ社会的治癒を主張していこうとしてもどの様に進めていって良いのか分からないことは多いと思います。その場合は是非障害年金を熟知した社労士にご相談ください。社会的治癒を上手く使うことで障害年金の請求幅は広がります。