高次脳機能障害で障害厚生年金請求 高額報酬で年金受給可能か?

 先日高次脳機能障害での障害年金の請求が完了しました。診断書の日常生活能力の程度と日常生活能力の判定は2級程度でしたが、請求人は単純労働ではありますが、障害者雇用でなく一般就労で就労しています。そして、標準報酬月額は30万円を超えているので、高額報酬で就労している=労働能力有りと判定され不支給になる可能性が十分あるケースでした。今回は障害年金と就労の論点を中心に、本事例においてどの様にカバーしたかお話しします。

 高次脳機能障害とは?

高次脳機能障害とは「あらゆる精神活動に関係する大脳の機能障害」を指します。具体的には①記憶力が低下する。②。喜怒哀楽の感情のコントロールができない。③物事を段取り良くこなすことができない。③注意力が持続しない④上手に話せない。⑤ 自立性や意欲が低下する等の症状があります。

『知られざる高次脳機能障害』松崎有子 より引用

 

原因は交通事故等による脳によるダメージ、脳梗塞、脳卒中、脳炎等により発症します。要するに、外傷、ウイルス、脳へ血液が廻らず等の影響で脳の機能が破壊され、破壊された部分に対応する機能が失われ障害として表面化するというイメージです。障害としては肢体障害、言語障害、認知機能面の高次脳機能障害という形で現れます。

請求人は脳腫瘍により意欲の減退、遂行機能障害、記憶力の低下、コミュニケーション能力の低下が高次脳機能障害として認定される形になりました。因みに身体や言語機能に問題はありません。

 

標準報酬月額が年金審査に与える影響

診断書の就労欄について

障害年金の診断書に就労の項目が追加されて早10年になります。現在でも就労の項目は任意とのことで記入しない精神科の医師もいます。その対応が良いかどうかはおいておいて、少なくとも就労の事実は年金機構もチェックしているはずです。そのチェック方法として考えられるのが、① 診断書の就労の記述欄 ② 雇用保険の加入履歴 ③ 社会保険の加入履歴になります。障害年金の大本は厚生労働省で日本年金機構に委託していますが、社会保険と労働保険を管轄している省庁になるのでその気になれば請求人が社会保険に加入しているかどうか調査することは可能です。仮に医師が診断書に就労状況を記載しなくても就労の有無を調査することは可能です。個人的には調べられたらすぐにわかる可能性があるので医師がいくら就労の記載は任意と言っても可能ならば記載をお願いするようにしています。私は記載して貰った上で、「就労はしているが周囲のサポートがあり就労継続できている、そのため就労しているが日常生活能力が向上しているものではない」という方向に持って行けるように書類を作成しています。

 雇用保険加入が障害年金の審査に影響を与えるか?

これは私の個人的な意見です。その上で、雇用保険の加入はさほど年金に影響を与えないと考えます。理由は、社会保険は標準報酬月額として年金事務所側で毎月の概算の給料額が把握できますが、雇用保険では毎月の給料の把握ができないからです。これは、雇用保険が旧労働省側だから把握ができないという理由ではなく労働保険料の聴取システムが関係しています。社労士や企業の人事担当なら分かりますが、雇用保険の資格取得は個人名で取得しますが、雇用保険料は11人ずつ納めるのではなく事業所単位ごと年度単位で納めます。1年度の事業所の年間で支払った賃金が1000万円だからそれに労災保険料率と雇用保険料率をかけて納入保険料を納める仕組みだからです。端的に言えば全労働者の賃金をごちゃまぜにして保険料を納付するので、厚労省からすると誰にいくら支払ったか分からないのです。もし、その人は雇用保険を受給していたら離職票に記載されている範囲で賃金把握はできますが、感覚的にはそこまでしないと思います。

なので、雇用保険に加入していたとしても、給料がいくらかまで年金事務所側では裏が取れないので、雇用保険に加入している事実は審査に影響しないと考えます。

ただ、就労しているという事実は残るので、そこをどの様に説明するかという問題は残りますが。

社会保険加入が障害年金の審査に影響を与えるか?

これも完全に私の私見ですが、社会保険の加入事実はしっかり説明しないと審査に影響を与える可能性は高いです。

社会保険は労働保険と異なり、年金事務所側でも各労働者の概算の賃金を把握しています。なので、請求人が概算でいくらの賃金をもらっているのか一目瞭然です。

ただ、この概算の賃金(標準報酬月額)が仕組みを知っていないと厄介です。この事例でもその点はよく説明しました。

標準報酬月額の考え方

標準報酬月額は毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分したもので、社会保険独特の考えです。標準報酬月額は給料で決まりますが、その給料には毎月の交通費や残業代、各種手当が含まれます。そのため、基本給が少なくても残業を多くしていたり、手当が手厚かったり、通勤手当が高いと基本給以上に標準報酬月額は膨れ上がります。本事例もまさしくその状態で基本給は206,000円しかないのに、各種手当、通勤手当、残業代含めて37万円まで膨れ上がります。当然標準報酬月額にもそれは反映されるので直近の標準報酬月額は38万円でした。当初、請求人の親族ははじめ給料が下がったと話されていたので、20万円程度かと思っていたら38万円だったので驚いた記憶があります。

38万円という事実は消しようがないので、後はその事実をどの様に年金事務所側に伝えるかどうかで年金の可否が決まります。

本事例での標準報酬月額の説明方法

方法はシンプルですが、給料明細を添付して給料の内訳を説明しました。給料の内訳を説明して純粋な労働の対価としては20.6万円であると説明しました。また、労働法の話になりますが、正社員である本人だけを狙い撃ちで手当を支払わないのは労働契約法上も違法なので会社としては手当の支払いは当然であるとも一文説明しました。あとは、仕事の様子、会社での配慮事項等も説明した資料を作成して提出しました。

終わりに

38万円の高額報酬をもらいながら年金請求するのは私も初めてなので、結果はどうなるか気になる所です。しかし、個人的には日常生活の困難度と就労状況での困難度、給料の内訳についてもきちんと説明したつもりです。現在は審査請求も念頭に置きながら日々過ごしています。年金と就労は関係ないと国は言っていますが、無茶苦茶関係あります。特に就労者は丁寧に就労の事実を説明していかないと不支給になる可能性もあるので、ご注意ください。無料相談随時実施していますので是非ご気軽にご相談ください。