変形労働時間制の正しい運用方法知ってますか?。変形制は休日コントールの制度です

初めに 

労働という、多くの人が避けて通れない道なのに学校では労働法について何も教えてくれません。会社側からするとコンプライアンスの観点から、労働者側からすると自己防衛の立場から労働法は知っておくべきルールです。

ここでは、労働時間の基礎とそれに紐づく変形労働時間制について少しでも理解を深める事が出来たら幸いです。

労働法の必要性

労働法の目的は労働者保護にあります。これは歴史的経緯から説明が可能で、産業革命後、私人間の自由な契約により労働者酷使された経験から、経営者側を縛る必要性が生じたことに起因します。日本の労働法は戦前の工場法を筆頭に戦後は労働基準法、労働組合法、労働関係調整法の労働3法として具体化されました。

本来自由である私人間の契約に国家が介入して労働者の最低限度の権利を保護しようとしました。

 

労働法と私法との契約との関係性

労働法は会社と労働者との関係を規律する最低限度の労働条件を示す。

労働基準法を下回る労働条件は労働基準法の内容に置き換わる。

例えば19時間、月給20万円の労働契約は19時間の部分が8時間に置き換わります。

逆に17時間、月給20万円は労働基準法以内の契約なのでOKです。

 

会社側からすると、会社の労働条件と労基法の規定が抵触していないか確認が必要になります。逆に労働者側からすると労基法に違反する契約かどうかチェックする必要があります。

 労働法で認められる最低限度の権利

労働時間 原則 18時間 140時間

例外 18時間 144時間(常時雇用10人未満の一部業種のみ)

休憩時間 6時間を超える場合は145分以上

8時間を超える場合は60分以上の休憩を付与

休日   11日以上の休日

割増賃金 140時間、18時間を超える場合に対しての割増賃金

22-5の深夜時間帯に就労させた場合の深夜割増賃金

11日の休日に労働させた場合の休日労働に対する割増賃金

労基法上の最低条件の労働条件の会社

労働基準法は、18時間 140時間、11日以上の休日を与えているならどの様な労働条件でも認められます。⇒例えば16時間で1週間1日の休日⇒136時間(6時間×6日)、年間休日52日でもOKです。別に18時間の就労でなくても12日休日を与えなくても違法ではありません。

 

140時間、18時間で労務管理を行う場合⇒18時間は1日の働く労働時間の上限になります。⇒140時間÷18時間=5日⇒15日しか就労させることができない。

なので、残りの2日休日が必要になる。それを年間休日に置きなおすと52週(365÷7)×2=104OR105日⇒18時間、140時間で就労させる場合、つまり、完全週休二日がとれる、104OR105日休日が確保できるなら違法ではない。

しかし、現実は正月休みもあればGWもあり、シルバーウイーク、お盆もあります。完全週休2日は正月、お盆、GW、祝日があってもそれらを無視して週休2日の休みを実現させる必要があります。業種によればその様な労務管理も可能な会社も存在すると思いますが、多くの会社は年末年始を休みにします。特定の週に多く休ませば他の週の休みを削らざる負えません。(極論言えば年末年始は休みにしたが、他の週も完全週休2日が確保できれば問題ないですが、その場合年間休日日数は104OR105日より多くなります。)

 

変形労働時間の必要性

年末年始や祝日はカレンダー通りに休みにしたい、しかし、年間休日は105日を維持したい。その様な会社の希望に答えるのが変形労働時間制です。

変形労働時間は①1か月単位の変形労働時間②1週間単位の変形労働時間③1年単位の変形労働時間④フレックスタイム制で構成されています。ここでは1か月単位の変形労働時間について説明します。

 

1か月単位の変形労働時間とは?

労働基準法32条の2

使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、1箇月以内の一定の期間を平均し1週間当たりの労働時間が前条第1項の労働時間(140時間)を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において同項の労働時間(140時間)又は特定された日(18時間)において同条第2項の労働時間を超えて(18時間)、労働させることができる。

読んでも理解できないと思います。

端的に説明すると平均値が140時間を超えないなら、140時間を超えて、又は18時間を超えて労働させることができる。

総労働時間の総枠が1か月での140時間以内に収まる平均値になります。

例えば40時間×31日÷7=177.14時間が平均値なので177時間は平均値内で収まります。

要するに、変形労働時間は31日の月で考えると、177時間内でシフトを組めばそれが140時間を超えたり、18時間を超えたりしても違法ではないという事です。

 

言葉で説明しても抽象的なので図で説明します。

合法なケース 1か月の労働時間が労働時間の総枠177時間に収まっているのでOKです。

 

 

 

 

違法なケース:1か月の労働時間が労働時間の総枠177時間を超えているのでダメです。

その他の変形性のポイント

① 11日の休日は必要。いくら繁忙期でも11日の休日は必要です。ただし、どうしても難しい場合は変形休日制を導入して44休の休日が確保できていたら問題ありません。しかし、労働者に負担をかけるのでできたら最低1週の休日確保はお願いしたいところです。

 

 

とどのつまり変形労働時間制とは?

 11日の休日を付与すれば、1か月の総枠(177時間、171時間等)の範囲内でシフトが決める制度です。通常は140時間を超えるシフトは組めませんが、変形労働時間を採用するとある週が48時間になっても割増賃金不要で就労させることが可能になる制度で上手く活用すれば残業代の削減につながる制度で会社有利の制度です。これを知る知らないで会社の労務管理の幅が格段に広がります。

 

変形労働時間を採用する際の準備

① 就業規則または労使協定に変形労働時間制を採用する旨を記載する。その際に勤務シフトも明記します。勤務シフトは就労予定の時間帯です。例えば(9-18 18時間)(9-17 17時間)等です。これを事前に就業規則等に明記しておかないと使用できません。

 

② シフト開始前までに予定のシフトを労働者に提示します。

 

③ シフトが終わると、事前のシフトと結果(1か月終わった結果、実際に就労した時間)を照らし合わせて時間外労働などの計算を行います。よく、結果だけで時間外の計算をしているケースが有りますが、それは間違いで正確な計算はできません。

 

変形労働時間制活用の本来の目的

① 変形労働時間を受験教材などで見ると月曜日は8時間、火曜日は7時間、水曜日は5時間等複雑なシフトを活用している例があります。しかし、実務でそれをすると収拾がつかなくなります。

② なので、変形労働時間の本質は1日の労働時間を固定して、月の休日数をコントロールする点が本質です。

例えば、どうしても休日が取れない会社を考えます。例えば建設業、どう頑張っても年間休日105日が不可能な会社が多いです。労基法は11日の休日を付与すれば違法ではないのでその点に着目して変形労働時間を採用します。

例えば17時間まで労働時間を抑えると31日の月では177時間÷7時間=25日就労させることが可能です。30日の月は171時間÷7時間=24日就労可能です。

ということは30日、31日の月の休日は6日で済むので年間休日は72日でOKとなります。

 17時間はギリギリのラインだと思います。建設業など月1日の休みも難しい業態だと思いますが、月1日の休みと最低6日休日を確保すれば違法ではなくなります。

突発的な時間外労働は就業規則に記載があり36協定を結ぶと命令は可能なので、休日日数が確保できない一日の労働時間を減らし年間休日を減らすことで合法化に進めることは可能です。

 

変形労働時間は休日数をコントロールする制度

 下記の表は変形労働時間を採用し、一日の労働時間に対しての休日数を表した制度です。労働時間を微妙に減らすと休日数が少なくても問題ない事が分かります。

制度的には1日の労働時間を固定する必要はないですが、固定の方が断然労務管理がしやすくなります。

これは1か月単位の変形労働時間を例に挙げました。もし、1年単位を考える場合は対象期間が1か月から1年に増加する分、労務管理の手間は増えます。その反面休日日数を年単位でコントロールできるので、繁忙期閑散期に合わせての労務管理は可能です。

終わりに

簡単にはなりましたが変形制の本質の説明でした。複雑なシフトを組む変形性もありですが、実務的には1日の所定は固定して休日数をコントロールする変形性が圧倒的に多いです。ただし、最終的には会社の実態に合わせて制度設計すべきなのでその点は理解して管理していく必要があります。テクニックに走りすぎてもダメなので会社の実態と社長が運用しやすい形で制度設計するのがベストです。

 

変形制でお困りなら是非ご相談ください。